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エスプレッソホーム(北九州市)|特別対談『建築×コーヒー』


 
(写真右)
福原材木店 エスプレッソホーム
常務取締役
福原 功夫さん
1981年、老舗材木店の次男として生まれる。20代前半
からバリスタとして腕を磨き、留学先の韓国でさらにコーヒー
の世界に魅了される。帰国後、家業を継ぎ、2011年に福
原材木店の建築部門「エスプレッソホーム」を立ち上げ。
2022年11月、自身の夢であったカフェ開業へ。
 
(写真左)
豆香洞コーヒー
後藤 直紀さん
1975年、神奈川県で生まれ、幼少期から福岡市で育つ。
東京の老舗、カフェ・バッハの田口護氏に師事。2008年、
大野城市に「豆香洞コーヒー」をオープン。日本代表とし
て出場した焙煎の競技会、World Coffee Roasting
Championship2013 において見事、世界チャンピオンに。

 

≪特別対談|エスプレッソホーム×豆香洞コーヒー≫

 
心に余裕を、暮らしに彩りを

建築×コーヒー

おいしいコーヒーとお気に入りの空間が演出
してくれるもの。きっとそれに勝る豊かさはない。
空間づくりのプロである福原功夫さん、
そして世界一の焙煎士、後藤直紀さんによる
建築とコーヒーのお話。
 
居心地の良い空間に
コーヒーがある幸せ

 

 建築とコーヒー。一聴すると関係がないもの同士に感じるが、エスプレッソホームを運営し、福原材木店の常務取締役を務める福原功夫さんは「コーヒーを楽しむ時間の大切さ」に重きを置いた家づくりに励む。そして、今や日本を代表するロースターとして知られる豆香洞コーヒーの後藤直紀さんは、コーヒーを楽しむ時間を「心のゆとり・余裕」と捉え、日々コーヒーを焙煎する。フィールドは違えど、〝コーヒー〞という普遍的なもので繋がった2人に「家づくりとは」、「カフェとは」、そして「コーヒーとは」、そんなテーマで語り合ってもらった。
 
福原:後藤さんとは、パナソニックの自宅用焙煎機「The Roast」のイベントで一度お会いしましたね。

後藤:そうですね。確か沖縄でのイベントでしたよね。

福原:私はもともとバリスタをやっていて、一度は自分の店を開こうと思ったほど、コーヒーが大好きでして。ですから、後藤さんは憧れの存在で、今回こうしてお話する機会をいただき、大変光栄です。
 私は家業の材木店を継いで、エスプレッソホームという新築・リフォーム事業を行なっているんですが、その家づくりの根底には「コーヒーを楽しみたくなるような空間」という考えがあり、私はその空間をホワイエと呼んでいます。ホワイエとは、もともと劇場やホールなどの入口と客席の間にある広間のこと。屋外と室内をつなぐスペースで、一見すると意味がないように見えますが、そういった空間を設けることで、自然と会話が生まれ、コミュニケーションの場になると私は考えています。

後藤:カフェもそうですね。昔、「カフェってなんだろう?」って考えた時に、定義はないなって思ったんです。お茶があって、人が集えば、もうそこがカフェになる。福原さんがおっしゃられている自宅の中に設けたホワイエも、人が集まればカフェのような空間になりますよね。そこにある飲み物はアルコール以外、なんでも良い。アルコールももちろん飲み物ではあるのですが、酒宴ではなく、あくまでお茶を楽しむ時間、空間であることが前提。お茶やコーヒーには、そういった心地良く人を集める力があると私は考えています。

福原:本当にそうですよね。一人で仕事や読書をしながら飲むコーヒーやお茶も良いのですが、人と会っている時、そこにコーヒーがあるだけで会話も弾む。例えば、仕事でお客さまと打ち合わせをする際も、お出ししたコーヒーにちょっとこだわっていると、「このコーヒーおいしいですね」という感じで、緊張した空気感も一気にほぐれますし、場も和みます。会話のきっかけにもなりますよね。

後藤:「お茶でもしませんか?」という感じで人に会い、集まる目的になりますしね。
 

福原さん宅の1階に設けたカフェのような空間(ホワイエ)でコーヒー談義に華が咲く3人。「こんな場所が自宅にあるってステキですね」と後藤さん

 
コーヒーがあることで
暮らしはどう変わるか

 福原さんは空間を作り出す人、後藤さんはコーヒーという嗜好品を生み出す人。空間は暮らしに必須だが、コーヒーはなくても事足りるもの。ただ、やはり好きな味わいがそばにあると、より暮らしが豊かになる気がする。後藤さんはコーヒーの作り手として、そのことをどう考えているのだろう。

後藤:コーヒーがもたらす豊かさというよりは、お茶を楽しむ時間がない寂しさを私は強く感じます。例えば、昔の農家さんなどは、忙しい時でもひと休みしてお茶を飲む時間を必ず作っていましたよね。そうすることで、仕事の効率が上がったりもする。忙しいからこそ、そういう時間を作るというのが私は大切だと考えていて、それを忘れてしまっているのは、やっぱり少し寂しい。例えば自宅でコーヒーを淹れる流れって、お湯を沸かして、豆をグラインダーで挽いて、ドリップするぐらいで、時間にして10分もかからないと思うんです。この10分をもったいないと思うぐらい忙しいのであれば、むしろそういう時間を無理やりにでも作ってほしい、と思いますね。この10分で次にやるべきことに向かう活力になるでしょうし、一区切りにもなる。

福原:本当にその通りですね。私の妻は花が好きで、必ず自宅には生花を飾っているんです。私は以前、見た目だけなら造花でも良いと思っていたんですが、やっぱり生花の方が、どこかぬくもりを感じられる。もちろん生きている花なので、こまめに水換えをしたり、水上げできるように茎をカットしたり、手間はかかります。ただ、そのちょっとした時間を手間と思うのか、リセットする時間と捉えるのかで大きく違いますよね。

後藤:そうですね。自宅でコーヒーを自分で淹れて飲んでるという話をすると、余裕があって良いね、優雅だねといったことを言われることもありますよね。これって逆かな、と私は思っていて。そういう時間を取り入れているからこそ、余裕が生まれるのではないでしょうか。

 コーヒーやお茶を淹れて、飲むという時間を作ることで生まれる心の余裕。その時間を過ごす場所が、自分にとってより居心地の良い空間であれば、なお素晴らしいだろう。それは自宅だけではない。エスプレッソホームは拠点とする八幡東区に新たにコミュニティカフェを開くことを決めた。「地域のために、私たちができることを」と語る福原さん。次のページでは、2022年11月の開業を目指すコミュニティカフェ「ヤハタ ココ」にフォーカス。福原さん、後藤さんが考えるコミュニティのあり方、そこにこだわりのコーヒーがあることでどういう変化をもたらすか。そんなことを聞いてみたい。

 
地域の人を繋ぐための
入口に自家焙煎コーヒーを

 エスプレッソホームが11月に八幡東区前田に開業予定のコミュニティカフェ「ヤハタ ココ」。今回、豆香洞コーヒーの後藤さんとの対談が実現したのは、このカフェの存在が大きい。焙煎士として、コーヒーを暮らしに取り入れる機会を多く作ってきた後藤さん。そして、「ヤハタ ココ」を開くにあたり、地域や人を繋ぐものとしてコーヒーを選んだ福原さん。2人が考えるカフェのあり方、コーヒーだからこそ可能にするコミュニティについて話してもらった。

 

福原:私はもともとバリスタをやっていたこともあり、友人や仲間にコーヒーを淹れて、それを飲みながら会話が盛り上がっているのを見るのが好きなんです。今年11月に開業予定のコミュニティカフェ「ヤハタ ココ」も、そんな場所を作ることができたらという思いから走り始めました。ただ、材木店や建築を柱とする私たちが、いわゆる普通のカフェを作るのはなにか違うという考えは頭にずっとありましたね。福原材木店は創業131年目で、私で4代目にあたります。歴史が長いだけに、会社がある八幡東区でも地域の方々に親しんでいただいており、そんな私たちだからこそできるカフェってどんな場所だろう、と考え抜いて、コミュニティカフェというスタイルを選びました。
 少子高齢化は全国的な課題になっていますが、特にここ八幡東区は65歳以上の人が区内の人口の35%を占めているほど。地域のコミュニティというのは、若い、ご年配など関係なく、世代を越えた交流がないと形成されません。さらに、この街は海外の方も多く暮らす街であり、そういった方々は特に地域との接点を持ちづらい。そういったことを考えている時に、トレーラーハウスを活用して、地域の方々にコーヒーを振る舞うイベントを行なったんです。そのイベントに100名以上の方々が来てくださり、「おいしいコーヒーが飲めるような場所、福原くんが作ってよ」といったお声をいただいたんですね。ちなみにイベントで振る舞ったコーヒーは後藤さんが監修した、パナソニックの「The Roast」で焙煎させていただきました。
 

 
後藤:ありがとうございます(笑)。それはうれしいですね。一昔前は喫茶店がそういう役割を担っていたこともありますし、飲み物があって、人が集えばカフェになるという意味では、コミュニティカフェは良い選択な気がします。

福原:カフェだけではなく、シェアキッチンやシェアブースを備えているのも特徴です。北九州市は起業家が多い街で、「自分のスキルを活かして、なにかをやってみたい」という考えを持った人は多い。シェアキッチン、シェアブースはそういった方々に気軽に利用してもらいたいと思っています。いわゆるチャレンジショップのように活用いただいても良いですし、まずは一回やってみようという利用でも良い。「ヤハタ ココ」が誰かの背中を押してあげられるような場所になれたらうれしいです。
 そんな空間を作る上で、人と人、人と地域を繋ぐために、なにがあったら良いか考えた時に、やっぱりコーヒーだったんですよね。それで、今回ぜひ後藤さんとお話がしたくて。私は、焙煎は素人なのですが、やっぱりコーヒーをメニューの柱とするなら自家焙煎するべきだと考えました。

後藤:焙煎は難しいという人、難しくないよという人、両方いて、私はどちらも正解だと思うんですね。福原さんも焙煎は素人と言われていましたが、そこまで難しく考えなくても良いと思います。なにより、味わいの評価をされるのはコーヒーを飲まれるお客さまです。その方々にフィットするコーヒーであれば、良いのではないでしょうか。それよりも、そういったこだわりをしっかりと持って、カフェを運営していくことの方が大切です。人が集う場所というのは、そこに存在するものの価値が大切で、その価値に共感する人が集まってくるもの。福原さんの場合、自家焙煎のコーヒーがこだわりになりますよね。おそらく、シェアキッチンやシェアブースを利用してみたいとカフェを訪れる方々にもそのこだわりは伝わるはず。「お、ここはなにか違うぞ。私もしっかりやらないと」と、気持ちをピリッとさせてくれるのではないでしょうか。

 
 

≪特別対談|エスプレッソホーム×豆香洞コーヒー≫

 
福原材木店
福岡県北九州市八幡東区前田3-2-1
TEL 093-662-4131
https://fukuhara-wood.com