【LIFE STYLE in FUKUOKA 福岡の暮らし。#4】この街で暮らすということ。

自然とともにあるシンプルな住まい、暮らしについて伺いました。この場所にショールームをつくりたい
創業者である妻の祖父の夢をきっかけに、人と人、人とモノ、人とコトが行き交う
ショールーム兼住まいが生まれました。

坂下さんの奥さまが子どもの頃に過ごした実家があった場所。しばらく空き家となっていたことから、結婚を機にこの場所に住まいを設けることになった。
「建物が老朽化し、住める状態ではなかったため、建て替えることにしました。妻の実家は『エフキャスト』というアルミ鋳物メーカーを営んでいるのですが、創業者の祖父はこの場所にショールームとオフィスを設けたいという想いを持っていたそうです。また、私自身も人と人、人とモノ、人とコトが交わりつつ繋がって、気持ちが豊かになれるような場所にしていきたいという想いがあり、1階にはショールームやショップ、アトリエの機能を持たせることにしました」と、坂下さん。
設計を依頼したのは、以前から飲み仲間だった「キトレペ建築設計事務所」の松田和也さん。仕事柄、周りには建築家が多くいた中で、松田さんの素材の選び方や、流行などとは一線を画した遊び心のある実験的な素材使いに、面白さを感じていたという。「松田さんに伝えたのは、1階はかつて工場があったという雰囲気を残したいということと吹き抜けにすること、2階の住居部分には廊下が欲しいということくらい。お互いのことをよく知っていたので、キャッチボールはあまり必要なかったですね」。
廊下を設けたかったのは、階段を上がってすぐ居住空間があるのではなく、一度、切り替わるところが欲しかったから。戸建てならではの奥行きがあり、壁面にはお気に入りの作品が飾られている。
独立以前は「コンランショップ福岡」や「NEST」(薬院)に勤務していたこともあり、インテリアへのこだわりが強いかと思いきや、意外にもこだわりはあまりないという。「セオリーなどは抜きにして、今まで集めてきたモノでどのようにまかなうかという感じです。足りないところは、欲しいモノが出てくるまで待ちます」。デザイナーや時代は異なるものの、センスよく融合され、しっくりと馴染んでいる。

テーブルの真ん中に置かれた
大皿料理を取り分ける家族の食卓

大皿料理を取り分ける食事がしたい、自宅にいるときは
リビングで過ごしたい、どんな暮らしをしたいかをイメージし
空間デザインに落とし込む。

ダイニングテーブルは、坂下さん自身がデザインしたもの。一般的なダイニングテーブルと比べると、奥行きが少々広くなっているのが特徴だ。「大皿から料理を取り分けるというのが、家族としていいなと思っていました。対面したときの距離を広めにして、小分けできるスペースを確保することを意識し、天板のサイズを決めたんです」と坂下さん。また、天板は通常つなぎ合わせることが多いが、あえてつなぎ合わせず、フリーの状態にしているそう。
「このテーブルのテーマは木が暴れることを受け入れるというもの。NESTでは北欧のヴィンテージを扱っていたこともあって、たとえ傷がついたとしても、きちんとメンテナンスをしながら、経年変化を楽しむようになりました。最近は自分のモノづくりも“受け入れる”ことや“委ねる”ことを意識するようになりましたね」と坂下さんは言う。建築家の松田さんとは、どんなデザインにしたいかというよりも、どんな暮らしをしたいかを話しながら、空間に落とし込んでいった。

地域のお祭りや行事などもあり、今の時代では珍しくご近所付き合いが残るこのエリア。「今でも妻の子ども時代を知っている方が多いんですよね。当時、ちゃんとご近所付き合いをしていたから、大人になって戻ってきた今、私も含めて受け入れてもらえるのだと感じています。お野菜を持ってきてくれたり、お裾分けをしたり。今では薄れつつあるご近所付き合いがあることも、この街の暮らしのいいところではないでしょうか」。
1階に坂下さんやお子さんがいるのがわかると、ご近所さんや子どもたちがふらりと入ってきたりもするそうだ。「ご近所付き合いがある場所だからこそ、ショールームに関わりのある人だけが来るような、内向きの場所にはしたくなかったんです。なので、近所の方や子どもたちが来てくれるのは大歓迎なんですよ」。さまざまな人が行き交う1階と、家族3人が心地よく暮らす2階。メリハリのある職住一体の暮らしを実現している。

自作のダイニングテーブルと坂下さんお気に入りのセブンチェアもしっくり馴染んでいる

鋳物の可能性を発信し
次世代へと継承する役割を担う

天神地下街の天井装飾で知られるアルミ鋳物メーカー「エフキャスト」。
ショールームである「PORT」では、その歴史や実績を紹介するとともに、
家具や雑貨に落とし込むことで、アルミ鋳物の可能性を発信している。
そのほかにも、さまざまな機能を持つ「PORT」について、話を聞いた。

プロダクトデザイナーとして活躍する一方で、家業であるアルミ鋳物メーカー「エフキャスト」の企画・デザインも手がける坂下さん。もともと工場兼住居があった場所ということもあり、ショールームは工場の雰囲気を残すことにした。家具や雑貨のオリジナルアイテムのほか、独自のセレクトによるインテリア雑貨を取り扱うショップの機能がある一方で、「エフキャスト」の歴史的背景や実績の展示を行なうなど、一般客も建築関係者も、幅広く利用できる空間となっている。また、不定期で展示やワークショップなども開催。意図的にさまざまな人が行き交うことを意識しているそうだ。
「最近は鋳物を知らない世代が増えています。家業を継承していくためにも、鋳物の可能性を発信していかなければなりません。鋳物を使った雑貨や家具をとっかかりとして鋳物の可能性を見せることも、ショールームとしての大きな役割の一つなんですよ」。同世代やそれより下の世代に発信することで、将来的に「鋳物でこんなことできないかな?」という相談を受けられるよう、今は種を蒔いている段階なのだそう。一方、坂下さんがCRITIBA として手がけるプロダクトの展示や販売も行なわれている。ここ数年意識しているのは、使った人の生活が少しでも豊かになったという実感が得られるモノづくり。そして、使っていない時間にも価値を見出すことだという。「道具を使うのは24時間の中の数分、多くても数時間です。好きな洋服も半日程度しか着ていません。けれど、好きなモノって、使っていないときも眺めていて気持ちがよかったりしませんか? せっかくモノとして存在するのであれば、使っていない時間にも価値を見出せるかがテーマになってきました」。
多種多様な機能を持ち、さまざまな人が行き交う「PORT」。イベント時以外は事前アポイント制となっているが、まずは一度訪れ、鋳物の可能性や坂下さんのモノづくりに触れてみてはいかがだろう。