過去、現在、未来。
わたしたちの家づくりはどう変わるのだろう。

新築住宅は“インフラ”として 建てていく考えも持っていきたい。

ずっと伝えたかった 「楽しく家をつくる」こと

『家づくりの本』の創刊号でも、家づくりに対する自身の思いを語ってくれた[ホームラボ]代表の徳冨さん。バックナンバーには「家は楽しく作って欲しい」というメッセージが綴られていた。 「10年経った今も。その思いに変わりはないですね。ただ、私たちをとりまく状況は随分変わったように思います。10年前は、家づくりに関して、まだデザイン重視というか、家の性能について自ら深く考える人ってそう多くはなかったように思うんです。“コトよりモノ” の世代というのでしょうか。しかし建築のプロとして僕たちは、当時も、家は暮らす人にとって大きな影響を与えるモノであり、「誰かのため」を思ってこそ生まれる非常に素敵なものだと考えていたので、そのことをもっとしっかり伝えなくてはいけない、と思っていたんです。そうした時にこの『家づくりの本』が創刊して…。ビジュアル(写真)と文章の両方で、自分たちのコンセプトを届けることができたのは良かったと思います。特に家を建てる方も“モノよりエクスペリエンス(体験)”の世代へとシフトしてきたことで、コンセプトを伝えることの大切さをより感じるようになりました」。 住宅業界側の変化についてはどう感じているのだろうか。「社のスタンスは基本的に変わっていませんが、国の制度や方向性は随分変わりました。まず国の政策自体が、2006年の住生活基本法を境に180度転換しました。それまで日本では、昭和41年(1966年) に制定された住宅建設計画法が施行されていたんです。高度成長期に制定されたそれは、数値目標に向かって家をどんどん建てていきましょうというもの。しかし高度成長期の終焉を迎えて制定された住生活基本法では、必要なものは建てるべきではあるけれど、どんどん建てない。いいものを建て、建てたら手入れをして長く使いましょうというものです。日本には現在、約6000万戸の住宅があり、うち1000万戸近くが空き家だと言われています。そんな状況下、これからも家を量産し続けるのってどうなの? というわけです。さらに、旧耐震基準の住宅には基本的にご退場願い、最低でも新耐震に切り替えたものだけ、次世代に引き継いでいきましょう、という流れも生まれました。それでも今、条件を満たしている住宅は6000万戸のうち3700万戸、その他の条件も入れるとわずか200万戸くらいしかない。まだまだなんです」。

住宅を手に入れる前に 少し考えたいこと

スクラップ&ビルド型の社会から、いいものを作り、きちんと手入れをしたものを長く大切に使おうという、“ストック循環型社会”へ。徳冨さんも以前から考えてきたテーマだ。 「それを目的として作られた『長期優良住宅制度』が施行されて8年になりますが、そうした動きの中から、『住宅の耐久年数は100年』、という基準も生まれました。となると、僕らは当然、『100年持つ家』について真剣に考えなければなりません。耐久年数が100年、ということは、建てた人はもうこの世にいませんよね。つまり、家を建てる人は、次の世代に渡すために、「どういう家を建てておくべきか」をきちんと考えることが必要だということ。また残すからには価値があるものでないといけないし、素敵だなと思ってもらわないと壊されてしまう。そのために、僕らは時間が経っても素敵だなと思える住宅づくりをしていかなければならないんです。実は社を立ち上げた20年ほど前から、僕らは『家は、いつか売るモノとして作りませんか』、という考えを持っていたんですが、当時はなかなか受け入れてもらえませんでした。日本では「家は“我が家”の財産」という意識が強いからです。ただそんな中でも、『長持ちする家はいい』という方は多く、そこには可能性を感じていました。 また今後は、住む人も、自分たちの住まいについて、きちんとビジョンを持ち、選択することが求められるようになるでしょうね。例えば、新築を建てるならばそれを社会資本のひとつ、インフラだと考えて取り組んでいく。逆に自分たちが生きている間だけ住める家でいい、と考えるならば、すでにあるものをリユースする、中古住宅をリフォームして住むことなども視野に入れるとか…。「家は個人の財産」という考えは法律でも認められているから当然なのですが、今後はもう少し家を持つことを広い視野で、考えることも必要だと思います。 ちなみに家の価値は25年でゼロになると言われていましたが、近年、その査定方程式も大分変わってきています。最高性能の家は100年でゼロ。しかし普通の状態で100年、キチンと手入れした場合は200年でゼロにしてもいいと。つまりちゃんと手入れしていると100年後でも価値が50%残るというわけです。30年くらいで売ろうとなると、ほぼ価値を落とさないまま売れる。これは豊かな人生を送る上でも大きいですよ」。

住宅の耐久年数は 100年の時代へ

今や、住宅の耐久年数は100年に。だからこそ、自分の家の価値を知り、資産として活用しながら、ゆとりある人生を楽しんで欲しい、と徳冨さんは考える。 「家を購入する時、大半の方がローンを組むと思うのですが、その際、FP(ファイナンシャル・プランナー)のアドバイスにしたがって、損益計算表を作ることがあると思います。本来、家を建てることは事業と同じなので、損益計算に加えてバランスシートも見ていかなくてはいけないのですが、日本では、家の価値が下がるスピードよりも借金の減るスピードが遅いので、バランスシートはいつもよろしくない状態、つまり、家計はいつも苦しい状態に。損益計算上はお金が足りているけど余裕がない状態になることを懸念し、バランスシートには蓋をすることもしばしば…。でも、70歳、80歳になり、家を売って、もう少し便利な場所に住みたい、施設に入りたいと考えた時、家が売れないとなると身動きが取れません。つまり、資産だと思っていた家は“なんちゃって資産”だったということになるんです。現在日本では、住宅の価値を推し量るものが、まだまだ不十分。こうした状況も多分に起こり得ます。 しかしこのような状況を打破するために、近年、日本には様々な活動、新たな住宅の基準も生まれています。2009年に発足した民間組織『HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)』は、断熱などの技術に着目し、住宅の高性能化と居住者の健康維持を目指す普及啓蒙を目的とした団体ですが、東大の研究者や住宅・建材生産者団体の有志から成るメンバーにより、住宅のポテンシャルを明確にし、建築と設備、創エネの調和がとれた価値ある住宅の普及に努めています。 また経済産業省は『快適な室内環境』と『年間で消費する住宅のエネルギー量が正味で概ねゼロ以下』 を同時に実現する住宅を「ZEH(ゼッチ)」と定め、さらに省エネルギーを実現させた住宅を「ZEHプラス」とし、1戸あたり115万円の補助金を出すことを決めました(2018年度は約2000件を支援)。 ほか、「住宅履歴情報」など、住宅の価値を定められるものが続々と増えている。家の価値を理解するにはとてもいいことです。しかし実際に家を建てようという方でこうした制度について知っている方がどのくらいいるのでしょうか。当社ではそうした様々な制度を頭に入れた上で、お客様の資産を守れるような家づくりを提案し続けています」。

より自由な感性で 家を楽しむ時代が来た

10年前に比べ、グンと上がった住宅性能と、着実に増えつつある住宅評価基準の数々。一方、「住宅のつくり・個性」には変化があったのだろうか。 「例えば和室がひとつもない家とか、室内と室外の境界線を曖昧にしたような家など、10年前の提案ではなかなか通らなかったものが通るようになってきたなと感じています。また空間を作り込み過ぎない、あえて余白を残した家も増えましたよね。建てる側のチャレンジ精神、というか、家をもっと自由に楽しむ人が増えたということでしょうね。その次の段階へ…と考えると、僕らは収納世代というか、置き家具に対して、経験値が低い世代だと思うんです。海外のインテリアがすべて良い、というわけじゃないけれど、品のいい家具や調度品を飾った部屋は、やっぱり素敵ですよね。そこがもう少し上手にできれば日本の「住まい」はもっと豊かになるかもしれない。実は昔の日本には、室内に家具をキチンと揃え、調度品などを飾る暮らしを楽しむ時代もあったのですが、それは“作り過ぎないハコ”があったゆえかもしれません。もちろん、商売人としては、作り付けの家具をオーダーされたほうが嬉しいのですが(笑)、いい家具を上手に使うことで、家はもっと魅力的に、家主の個性も引き出してくれる。だから『ホームラボ』の住宅は、間取りを見ていただくと非常にシンプルな感じになっていると思います。その反面、素材や空間のバランスなどに気を使い、そこからインテリアコーディネートのアイデアが広がるような空間を提案しています。設計士の頭の中にあることって、実は10年前から変わっていないと思うのですが、お客さまに受け入れていただける土壌が広がると、「いい家」はもっと提案しやすくなると思います。 住宅全体のデザインに関しては、多少のトレンドはあるものの、全体的なフォルムであるとか、デザインの原則的なポイントを守ることで、時間が経っても古さを感じさせない家が増えたと思います。ちなみに当社のモデルハウスは築17年くらいになるのですが、見ていただけるとそんなに時代性は感じないかも。その上で、経年変化とはこういうこと、を教えてくれる貴重な存在です。このモデルハウスのほかにもうひとつ、最新のデザインのハウスがあるとバランスが良いでしょうね。それらを見比べてもらって、変わるもの、変わらないものの良さを、見て感じてもらえるから」。 そこで2017年、[ホームラボ]は、オリジナルの建売住宅「ラボタテ」をリリースした。 「建売と言っても、どんどん建てて、売っていこうという分譲タイプの建売でなく、 “今”のホームラボが手がける住宅を見てもらう目的もかねて立ち上げたんです。会社としても、少しリスクをとることにはなるのですが、スタッフにとっても限られた予算の中、100年を見越した様々な制度、いろんなしくみ、サービスを組み込みながら、住宅を手がけられるいい機会になるのではと思いました。もちろん、お客さまと一緒に楽しむ家づくりも大切なのですが、これはちょっと別物として。見学していただけた方に、『なるほど、ホームラボはこういったこともできるんだ』と感じていただけたら、お客さまの気持ちの幅も広がるのではないかと思っています。誤算だったのは、完成した建物が即完してしまったこと。実を言うと、もう少しモデルハウスとして多くの方に見ていただきたかったんです(笑)。でも自ら土地を探し、作った家がすぐ売れたという経験は、スタッフにとっても自信になったと思います」。

大切にしてきたものこそ つなぐことを考えよう

新しいものを取り入れながら、経年変化を楽しみ、100年、もしくはそれ以上続く家を造る。未来に向かう今、徳冨社長が鍵になると考えているのが、「家族のあり方」だ。 「ホームラボをスタートさせた20年前にも、近い将来、家族は多様化すると言われていましたが、これから先はますます多様化していくのではと思います。今や、お父さんは厳しく、お母さんは優しくて、子供が2人か3人いて…みたいなステレオタイプ、通じないでしょ。家族の形態にもバラエティ感があって、さらに個人ひとりひとりを見てみても、自由な発想や生き方をする人も増え、それを除外するのではなく、あの人はきちんと生きている、ということをみんなが認められる世の中にもなった。住み方についても変わってきますよ。みんなで家を共有するシェアハウスとか、今の若い人の方が社会性みたいなものをきちんと考えているな、という気もするんです。そんな中、家はどういう存在になっていくかというと、個人の資産としてきちっと査定されるものになると同時に、その先に新たな人が受け入れてくれることを想定して建てるものだ、という考えが根付いてくるように思います。 ただ、少し矛盾するかもしれませんが、住宅、特に新築で家を建てる時にはみなさん“想い”があると思うんです。子どもが小さいうちに建てることもそうなのですが、「家」はつまり、家族にとって大切な思い出の一端を担うものなんですよね。そう考えると、それを売ってしまうこと、手放すことには寂しさを感じるかもしれません。でもそれは、決して悲しいことではなく、家というものが世代を超えて受け継がれていく、という風に考えられるようになったらいいなと思います」。 そう語る徳冨さんに、今後の展望について聞いてみた。 「昨年より『ラボタテ』をスタートさせましたけれど、将来的には4、5件をまとめて手がけて、ちょっとした町のような、その区画に入り込むと、そこだけ別世界、みたいな家づくりにも挑戦してみたいですね。住宅の価値は、家単体よりも、街区によるところも大きい。僕らが住宅と同時に不動産を手がけているのは、町の価値をきちんと上げながら、そこにある住宅の価値も上げたいという想いがあるからです」。 1軒の家が、豊かなまちを作り、まちが豊かな人をつくる。少しだけ頭に入れておくことで、もっと幸せで、楽しい家づくりが楽しめるに違いない。