Freedom and Beauty
生き方と家は、自由に、美しく。

選び抜いたモノを軸に、家という物語を編む。

ふたつの箱が重なり合うように建つシンプルなフォルム、ニュアンスを含むグレーの外壁、モノトーンカラーの中に一点、その向こうにいる人の温度感を感じる木調の扉…。家が放つ圧倒的な存在感に思わず息を飲む。つくり手の気概を感じる、洗練された佇まいに見入る内、あまりにも有名なこんな言葉を思い出す。“神は細部に宿る”――。これは20世紀のモダニズム建築を代表する、ドイツ出身の建築家ミース・ファンデル・ローエが好んで唱えた標語。その意味は“細部に渡るまで精緻な技術を施してこそ、ものの本質が決まる”というもの。この言葉をそのまま体現するような家の佇まいに、いやおうなしに胸が高鳴る。 真っ青な空が広がる春の日、Tさん一家が暮らす新居へ伺った。Tさん一家は、多趣味なご主人と、いつでも自然体で家族に向ける優しい眼差しが印象的な奥さま、そしておしゃまな二人姉妹の4人暮らし。開放的な空間に、色を効かせたインテリアが映えるリビングは、風が心地よく通り抜け、美しい光にあふれていた。そしてダイニングと隣り合う中庭の景色が、さざめく緑と空をたゆたう雲だけ、ということに思わず自分の目を疑ってしまう。なぜなら、Tさんの自宅が建っているのは、熊本市中央区の人気エリアであり、目と鼻の先には、マンションや旅館が立ち並ぶ立地なのだから。一見すると、この場所に住まいを建てるということすら、想像しづらい場所であるにもかかわらず、理想的な空間が見事なまでに描かれている。「朝、中庭からリビングに差し込む光がとても綺麗なんです」と微笑む奥さま。家の中に流れる心地よい空気感は、紛れもなくこの家が自ら生み出しているのだと気づく。
インテリアはすべてご主人のセレクト。アクセントカラーを取り入れ、空間にリズムを与えるバランス感覚はお見事! 天井の梁は、家の雰囲気に合わせて、どこかエッジを効かせたシャープな仕上がりに

クリアなイメージが家づくりを成功に導く。

T邸が完成するまでの過程を紐解いていくと、そこには幼き日のご主人と従兄弟が交わした大切な約束があった。「僕は物心ついた頃から医学の道を志していて、僕の従兄弟は建築家を目指していたんです。僕は自分が本当に夢を叶えることができたら、その時は設計を頼むよ、といつもそんな風に話をしていたんです」と、懐かしそうに当時を振り返るご主人。そうして熊本と東京、生活の拠点は違えどもそれぞれの夢を見事に叶えたおふたり。新居の計画が持ち上がったのは、キャリアを重ねてきたご主人が自らの暮らしや働き方を顧みて、改めてライフワークバランスと向き合っていたときのこと。「これまで仕事柄、転勤はつきもので仕事もハードだったので、家族との時間もままならなかったというのが正直なところです。以前は、娘たちの世話もほとんどできない状況でした。家族との時間を生み出せるように、思い切って働き方を変えようと決意したと同時に、今までなかなかチャンスがなかった新居を建てたいという想いが芽生えたんです」とご主人は話す。「モノに執着するのは考えものかもしれませんが、僕は昔から身の周りにあるモノに何でも興味がある方なんです(笑)。ボールペンひとつからインテリア、洋服、車、音楽まで何でも! だから家づくりは、楽しくて仕方なかったですね」。 設計は、かつての約束を果たすべく、迷うことなく従兄弟に依頼。ご主人がこれまで培ってきた審美眼を踏まえて、イメージする家の雰囲気を雑誌やインターネットを参考にしながら希望を伝えた。すると、今の新居に近い図面を提案されたとか。細かい仕様を調整すると程なくプランが完成。元々、モノに興味関心が高いというご主人にとって家づくりは、自ら働き方改革を遂げた、新たな人生の門出にふさわしい冒険だったに違いない。

ガラスという素材を活かし空間の広がりを演出して。

旧知の仲の従兄弟に設計を依頼したことですんなりと決まったプラン。喜びの一方で、一家は施工会社が見つからないという壁に直面する。そんな折、ご主人が偶然訪れた友人宅で目にした庭を気に入り、その庭を施工したガーデニング専門店の店主と知り合う。その店主に事情を打ち明け、出会ったのが熊本市東区江津にあるビルダー[ブレス]だった。[ブレス]は、確かな施工技術と施主の夢を形にするための手間を惜しまない真摯な姿勢に定評のあるビルダー。「訪ねて行くと“持ち込みの図面の施工は普段はしていないけれど”と言いつつも、[ブレス]の方はきちんと耳を傾けてくれました。そのことが何よりうれしかったです。この家を形にしていただけたのは、普段から手の込んだ注文住宅を施工されている[ブレス]さんだからこそです」とご主人も絶賛。「僕は、この家で叶えたい3つの希望がありました。ひとつはガラス張りのガレージ、そして憧れのメーカーのキッチンと浴槽を導入すること。予算的に諦めなければならないだろうな、と思っていたのですが、おかげで3つすべてを叶えることができたんです! 」。ご主人の心底うれしそうに語る顔が忘れられない。
LDKと一体感を感じるガラス張りのガレージは、愛車を眺める愉しみだけでなく、空間に広がりを与えるというメリットも。「ガラス張りじゃなかったら、もっと圧迫感があったかな」と奥さまも納得

暮らしのシーンに緑をその景色が心を育む。

専門的な技術は日々進化し、知識を掘り起こせばどこまでも深く広がっていく建築の世界。本来、突出した才能を持つ建築家が持てる技術のすべてを注いだ図面を頼りに、遠隔で施工を行うという形態は、施工を受け持つ[ブレス]にとっては通常の施工以上に頭を悩ませることも多くあったはずだ。けれども、細部に至るまで美しく仕上げられた家の中を見渡せば、[ブレス]が苦労も厭わぬ姿勢で建築家とTさんの描く世界観と徹底的に向き合い、具現化することにひたすら集中していたであろうことが伺える。木造建築でありながら、ガレージから続くリビングの吹抜けとスキップフロアの大空間を実現するために、特殊な構造材を使った施工はもちろん、設計図には描かれていないほんの数ミリ単位のディティールの表現でさえも、現場で的確な判断を重ね、イメージを読み解き、細かな調整を重ねた。その丁寧な手仕事の集大成こそ、T邸が発する圧倒的な存在感の根幹にある。 人生において働き方を選ぶことは、生き方を考えることと同義である。しかるべきタイミングで自らのキャリア見直し、新しい人生の扉を開けたご主人。そこには新しい環境で働くという挑戦だけでなく、培ってきたセンスを投影した新居の建築、そこで過ごす奥さまや可愛い姉妹との時間、新たな趣味など、好奇心を刺激する自由で豊かな世界が待っていた。 「以前は娘の送り迎えをすることさえも考えられないスケジュールでしたが、今はそれができる。家族の時間を持てるようになったことは、うれしいですね」と話すご主人。隣に座る愛娘を見つめる顔が思わずほころぶ。建築家とTさんと[ブレス]がつくり上げた、Tさんの生き方を象徴するような自由で美しい新居は、これから続く人生という冒険に繰り出すための最良の船になるだろう。
日々、家族の心を優しく潤してくれるのは、ダイニングとキッチンから眺める中庭の景色。奥さまと料理に興味を持ち始めた姉妹は、時折キャラ弁を作ってはテラスでシートを広げてピクニック気分を満喫しているとか。「これから家族でアウトドアを楽しみたい」というご主人。テラスでも活躍しているアウトドア仕様のチェアは、そんなご主人から姉妹へのプレゼント