本物のアンティークだけが映し出せる
温もりあふれる光と影のグラデーション

● 無垢材、珪藻土など自然素材を使う ● 玄関にあった土間を復活させたい ● 古い梁や柱をできるだけ活かす ● 明るく温かく開放的な空間に ● 薪ストーブがほしい

先人の思いが刻まれた
築65年の古民家を
リノベーション

存在感のある天井の小屋梁。真っ直ぐに長い窓辺の丸太。すっかり飴色になった梁や柱をじっと見ると、昔の職人たちの手描きの文字が残ったままだ。古いのに、惚れ惚れするような立派な木組みの家は、Wさんが幼少期を過ごした場所。「昭和26年頃、祖父の代に、親戚の大工が初めて棟梁を務めた時に建てたもので、梁に使う杉は山からとってきたと聞いています」。

外観はほとんど前の家のまま。どっしりとした古い造りをそのまま活かした佇まいが美しい。ガラス窓からは土間玄関が見える

以前は福岡市内に住んでいたWさん一家。子どもの高校卒業を機に、Wさんの実家に戻ることにした。両親は離れに住んでいて、たまの法事にしか使わない母屋は空き家状態。奥さまは「寒いし暗いし、こんな場所には住めないと思っていた」と言うが、Wさんは先人の残した小屋組を見て、生まれ育った家の再生を決意。古民家のリノベーション実績も豊富な地元の工務店、[長崎材木店]をパートナーに選んだ。

リビングの壁はゼオライト塗、床はナラの無垢材を使用。見えない部分で構造を補強して耐震性も高めている

Wさんは「昔のものを活かす」を重視。天井は吹抜けにして梁を見せ、子どもの頃のかすかな記憶にある〝玄関の土間〟の復活を要望した。一方、奥さまが求めたのは「住み心地の良さ」。床や壁には自然素材を使うこと。そして、暗かった居室は、建具や襖を取り払い、陽射しを取り込めるようリクエストした。

1階は開放感あふれるLDK。一方、2階はご主人の書斎兼フリースペースと2人の息子の子ども部屋で隠れ家風の雰囲気に

デザイン力と施工技術で
古い材を最大限に活かす

幼少期の記憶にある土間を、ご主人たっての願いで復活。バイクいじりや日曜大工、友人を招いてビールを飲むなど、「男の趣味の時間」を楽しむための空間に生まれ変わらせた

Wさん夫妻に要望をヒアリングした建築士・八川さんは設計をスタート。「古い材には人間の手ではつけることができない古い味わいがある。もとの素材をどれくらい活かすことができるか、がリノベーションの醍醐味」と、まずは太い梁や柱をそのまま残して古民家の風情を保ちつつ、見えない部分で構造を補強。ガラスはペアガラスに交換して断熱性も高めるなど、住まいの安心・安全を確保。さらに寝室、洗面、キッチン、リビングを回遊できる間取りにして、家事動線にも配慮。寒い冬も暖かく過ごせるよう、奥さまたっての希望の薪ストーブも取り入れた。こうして、昔の名残をとどめながら、今のWさんファミリーのライフスタイルにしっくりと馴染む住まいが完成した。

「明るくなった昼間のリビングもいいですが、夜の照明に照らされた落ち着いた雰囲気も好き。ソファに座って梁を見上げて、ゆったりとした気持ちで過ごせます」と奥さまが言えば、「通勤時間は長くなったけれど、今までに味わったことのない『家に帰ってくる楽しみ』を感じています」とご主人。新しいけれど懐かしい。〝アンティーク風〟には醸し出せない、本物のアンティークだけがもつ温もりと安心感が、この家には確かにある。

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